「終わった……な」

 その言葉とともに、クラヴィスは床に倒れ込んだ。

「クラヴィス! あ、そなた頭をっ」

 同じように倒れている状態のジュリアスは、クラヴィスの出血が額からではなく頭部からのものであると知った。ジュリアスはなんとか半身を起こしクラヴィスの側に這う。

「しっかりせよ、クラヴィスっ」

 ジュリアスの問いかけに、クラヴィスはぼんやりと「ああ」と答えた。瞳は開いているが虚ろである。

「これまで、だな」

 炎は衰える事なく迫り、部屋の全体を焼き尽くすのは時間の問題だった。

「光と闇の守護聖不在で宇宙はどうなるのだろうな……ああ、マルセル、すまぬ、そなたを救う事が出来なかった……」

 とジュリアスは急速にぼやけてきた視界の中で呟いた。

「誰かが引き継ぐのだ……案じる事はない。一時、世界は混沌とするかも知れぬが、ルヴァやオスカーたちがいる、女王はまだ若く力に満ちあふれている、なんとかなるだろう」

 クラヴィスは仰向けに倒れたまま、朧気とした意識の中でそう言った。

「ジュリアス……私の手を……」

 クラヴィスはジュリアスの指先を求めた。細い艶やかなジュリアスの指先をクラヴィスはしっかりと自分の指に絡ませた。

「目を閉じていても感じる……眩しいな、お前はいつも……」

 クラヴィスの脳裏にはジュリアスと新女王になったばかりのアンジェリークが交錯した。

「すまない……アンジェリーク……」

 そしてクラヴィスは意識を失った。ジュリアスもまた、その指先から微かに染みいる安らぎを受け止めながら、ただ深い眠りの底に落ちて行く自分を感じていた。

 


第5章
表 紙