サクリア仮面2外伝・放たれたもうひとつの呪縛

 ……後日。

「しかし、クラヴィスの力を持ってしてもトムサの霊が収められないとは……」
 ジュリアスは険しい顔をした。
「でもクラヴィス様のサクリアで、凍てついた空気は、一旦和んだんですよ」
 ランディは不可解そうに言う。
「……トムサの改心の念……、悪行を詫び、始末を付ける事への未練は私が消してやった。成仏できないのは、やはり他の理由からだったな」
 クラヴィスが、そう言うとジュリアスは怪訝な顔をした。
「他の理由とは……何なのだ?」
「マルセルだ……」
 クラヴィスは、脱力したようにそう言った。
「え? 僕?」
 マルセルは目を丸くしている。
「あ〜わかりました。ソッチの趣味は、いくら光のサクリアを浴びても消せないんですかねぇ〜」
 ルヴァは頭……ターバンを掻きながら言う。

(あの可愛い金髪の子に逢いたいなぁ……、いっぺんでええから……。あ、そやそや、もう一人の綺麗な方も一緒に、連れてきてくれへん?)

 クラヴィスは、闇のサクリアを放った時のムトサの霊の最後の言葉を皆に告げた。
「もう一人の綺麗なのって、もしかしてワ・タ・シ?」
 オリヴィエは少し得意気に言う。
「彼は、金髪の、しかも自分より背の低い男性が好きなのでしたね。マルセル、オリヴィエお墓参りしてあげたら……」
 心優しいリュミエールは、少し目を潤ませて言う、しかし口元は笑っている。

「お・こ・と・わ・り! 隠してたけど、クラヴィスほどじゃないけどね、実はワタシは見える体質なんだよ。ドロドロに火傷した上に、ブヨブヨに水膨れした仏サンの霊になんか逢ったら、気絶しちまう、やだやだ 〜あ、鳥肌」
 オリヴィエは、自分の両肩をさすりながら言った。
「大丈夫だ」
 クラヴィスはボソッと呟く。
「なんでだよ?」
「ヤツの話によると、燃えた天井が落ちてきた時は、まだ意識があったのだと言う。爆発で島が、水没した後も微かに息があり、いよいよ死ぬというときに、上手い具合に鮫がやってきて、首から下を食われて死んだのだと。だから 直接の死因は、鮫死……だな。霊は顔から下はなかった。顔は無傷だった」
「鮫死……ってそんな死因……。でも顔だけは無事だったんだね……、あの顔だけの霊ならオッケーかも」
 オリヴィエは、トムサの美しい顔を思い出す。
「なんだ……クラヴィス様、やけに落ち着いてると思った……」
 ランディは、ガッカリしたように言う。
「そういうワケだし、マルセル、ワタシと一緒に行ってあげようよ、お墓参り」
 オリヴィエは観念した様子で、マルセルを誘った。
「はい……あんまり気がすすまないけど。けれど、あの人、僕の事まだそんなに……」
「もう死んでるんだしさ、それに首から下が無いんなら、したくったってやりようがないしさ」
「いや、だが、お前も一緒にと念を押すあたり怪しいな。お前に憑依しようとしているのかも知れぬ」
 クラヴィスは、ニヤリと笑った。
「じゃあ何っ?! ワタシの体を使ってマルセルとナニする気!?  嫌だよ、そんな。意識があるならともかくも、体だけ無断借用されるなんてっ。やられ損ぢゃないか〜、あ、この場合、やり損か……」
「オリヴィエッ!!!」
「オリヴィエ〜〜〜」
「オリヴィエさまっ、僕は絶対に行きませんからねっ」
 皆の非難がゴーゴーと飛ぶ。全員から思い切り白い目で見られたオリヴィエは、結局、マルセルから三日間、口を利いてもらえず……。
 
 さて、そのせいもあって、トムサの霊の件は、結局、そのまま有耶無耶になってしまったのだった。

 それからまた数日後、ジュリアスの執務室で午後のお茶を楽しんでいたオスカーは、ふと思い出して、「ジュリアス様、昨夜も、あの墓地のあたりで、生首だけの亡霊が出たらしいですよ」と言った。 
「ほほう、オスカー。早耳だな? その報告は私の元にも伝わってはいるが、皆にはまだ言っていなかったのだが? 何故、その話を知っている? 昨夜はそなた、どこにいた?」
「う……俺は、ただ世間の噂をたまたま小耳に……。それよりルマクトーの霊の件は?」
 オスカーは、モゴモゴと答える。
「 ふむ……。とりあえず、ルマクトーの霊はもう捨て置いて良い。特に悪さをするわけでもなく、金髪の若い男性ばかりにすり寄っているだけと聞くからな。それよりも、オスカー 。そなたに、サクリア仮面レッドとして、ひとつ仕事を頼みたい」
「はっ、なんなりと、このオスカーにおまかせを。ジュリアス様の信頼を裏切るようなことはしません」
「それは頼もしいことだ。では、最近、あの付近によく出没する赤毛の色男とやらを成敗してはくれぬか? 酒場で働く女性が、夜な夜な泣かされていると聞く」

 ろくな返事の返せぬままに、お茶を飲み干したオスカーが退室した後、ジュリアスは一人で笑いを噛み締めると、やりかけてあったことに取りかかった。
 だが、とたんに眉間に皺が寄る。コンピュータの画面上、表示された細かな文字がジュリアスをあざ笑うかのように 表示される。

「おのれ……ゼフェル。この雑多なサイトの作りはワザとだな。『どこでも次元回廊』の差分ファイルはどこにあるのだ? む……これか……。な、何っ?!」

このファイルを貴方のテンポラリーフォルダーなどにダウンロードした後、ゼフェル特製圧縮解凍ソフトZEPにて解凍して下さい。新ファイルの出力先を指定するときは、そのディレクトリ名にサクリア仮面のパスワードを必ず付加の事……尚、ゼフェル特製圧縮解凍ソフトZEPは、守護聖専用シェアウェアです。五百万聖地ドルを前払いでお支払い戴きます。……特にジュリアス、おめーにはビタ一文負けてやらねーから 、払えよ。特別休暇一週間でもいいぜ!
 
 注意書きを読み終えたジュリアスは怒りに燃えながら、それでも差分ファイル欲しさに、ENTERキーを叩いた。
 その頃、ゼフェルは自室のモニターの前で、ジュリアスからアクセスがあった事を知らせる警告音が鳴ったことに、ニヤリ……としていた。

「さてと……更新すっかな。ええっと、【お詫び】当方にて配布中の【どこでも次元回廊Ver1.45】差分ファィルVer1.00からVer1.45のファィルに、ウィルスが含まれていることが判明いたしました。実行後、お使いのデスクトップを、 イヤンな画像に強制的に置き換えてしまいます。尚、この画像は削除できないように特別のプロテクトがかかっている模様で、画面は完全にフリーズしたままになります。ワクチンは 、当方のサイトにて配布予定ですが、執務や勉強が忙しくていつになるか……。でも、お急ぎの方は、五千万聖地ドルにて、至急メンテナンス承り中…………っと、ポチッ っとね。ほら、更新!」

 ジュリアスのマシンに、その『お詫び』が突如表示され、数秒後、ニッコリと笑うクラヴィスの世にも珍しい画像が現れたのだった…………。


 お わ り
 

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