黄昏の聖地

 

 

 


執務室に黄金色の光が降り注ぐ。
朝一番のそれと違い、夕暮れのそれは包み込むような穏やかな日差し。
私は、机上の書類から顔をあげ、背筋を伸ばす。そして時計を見る。

そろそろ館に帰ろうか? いや、まだ少し早い。いましばらくは……、と思い直し、何気なく執務の予定表を確かめた。

ああ……11月11日か……。
今日が、クラヴィスの誕生日であった事に気づく。

朝一番に、執務官と共に確かめた時は、ぎっしりと書かれた今日の予定に、その事を思い出す余裕が無かったのだった。
だが、今更、あれに誕生日の祝いの言葉など、何と言って話しかければ良いものか………。

遠い昔、お互いの誕生日を祝いあった時もある。それは年長の教育係の守護聖が、半ば強制的に開いた誕生会ではあったが、それはそれなりに楽しかった……と思う。

互いの誕生日を、祝いあうことをしなくなってから何年になるのだろう……。

「まぁ……よい……」
 私は、それ以上、クラヴィスの誕生日の事を気にかけるまいと、再び書類に目を走らせた。

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