Portrait

 

 クラヴィスの何かを思い出したようなその顔は、写真の中の表情によく似ていた。
「あのカメラマンは、光の中で闇の守護聖を撮ったから、夜の帳が降りた頃に光の守護聖を撮ってみたかった……と言った。 その瞬間に彼女がシャッターを押したのだ。もう一枚だけフィルムが残っていたら……と残念がっていたが、たとえ残っていたところで……」
 微笑みに繋がる直前の、ごく僅かに口端の上がった表情は、そういうことであったか……。
「そうだ。私を写真を撮ることは叶わぬ 。彼女はそういう目的で雇い入れたのではないのだから」
 と私は答えた。模範解答だ。
「だが、もし……。彼女ならどのように私を撮ったのだろうな? 夜の帳の中……か。そなたの写真と対になる作品を考えていたのか?」
「そのようだな。私たちの見た目があまりに対照的なので、ネガとポジのようだと……」
 安直な例えではあったが、カメラマンならではの言葉だと思った。
「いつか、私が聖地を去ると判った時、彼女がまだ健在なら、撮ってもらおう。この写真と対になるように」
 クラヴィスがまた、ふっ……と笑った。私も、この話が終わったことに対する笑みを浮かべ、写真と封筒を机から取り、自分の執務室へと戻ろうとした。
「ジュリアス」
 と背中越しにクラヴィスの声がした。振り返って、「何だ?」と答えた。
「いいや……」
 クラヴィスはそう言って、机の上に肘を付いた。私はクラヴィスにチラリと視線を合わせた後、部屋を出た。何か言いたかったのかも知れないが、用もないのに私の名を呼ぶ……。子どもの頃に、時々あったことだった。一度、文句を言ったら、言おうとしたことがあったけれど、名を呼んだら気が済んでしまったのだと……と俯いて言い訳をした。 悪意がないのは判っている 、が……。
 扉を閉めた後、私は手にしていたクラヴィスの写真の額を指で軽く弾いてやった。間の抜けた軽い音がした。
「ふ……」と忍び笑いが漏れる。これから、あれに腹が立った時は、こうしてこの写真に当たってやろうか……。 せっかくの作品が傷むとあのカメラマンは怒るであろうか? クラヴィスが相手だと些か大人気のない物言いや振る舞いが、自分の中で許される気がするのは、やはりこの者との長い付き合いの所以か……。 私はもう一度、クラヴィスの写真を見る。あれの内面が垣間見えるような穏やかな良い顔だ……と心から思った。

END

■あとがき■

 

聖地の森の11月 黄昏の森