数日後、カティスは聖地から去って行った。ジュリアスは守護聖交代の雑務に追われ、忙しい日々が続いていた。そんな中でも気にかかるのは、カティスから託されたコインの事だった。執務の合間を見て、代々の守護聖の残したものが保管してある古い宝物庫なども調べていたジュリアスだったが、コインそのものはもちろん、手掛かりとなるような事も一切得られなかった。最初は見つからなければそれはそれで仕方がないとは思っていたジュリアスだが、その性格が災いして、気になり出すとどうしようもない。考えたあげくに、ジュリアスはクラヴィスの執務室を訪ねたのである。 「……と言うわけで、そなたの水晶球ならば、何かしら手がかりは掴めるのではないかと思い……」 ジュリアスはコインの纏わる話をクラヴィスに一通り、話して聞かせた。 「…………」 クラヴィスは無表情のまま、机の引き出しを開けて何かを取りだし、ジュリアスの持参したコイン片割れの横に置いた。ジュリアスの持っているものと同じ切断面を持つコインである。 「これは! そなたがどうしてこれを持っているのだ? これはまさしく私の探していたコインの片割れではないか」 ジュリアスは、二枚のコインを裏返した。一方には一段目が『FOR』二段目が『FRIE』もう一方には同じく『EVER』『ND』と刻んであった。 「合わせてみよう……」 ジュリアスは二枚のコインの近づけた。 「『FOREVER FRIEND』…………謀られたな」 クラヴィスは呟いた。 「いにしえのものとは嘘だったのか……」 「カティスから、お前とほとんど同じ事を言われた。違うのはコインの元の持ち主の所だけだ」 「では、古の闇の守護聖の失せ物だから、縁があれば、そなたになら見つけられるかも知れない……と言われたのだな?」 「ああ。引き受けたものの、そのような人の念のこもった古いものならば、水晶球が何かしら反応を示すはずなのだが、全く反応がない……おかしいとは思っていた」 二人はそれきり押し黙って、合わさった一枚のコインを見ていた。 「聖地を去る間際まで、カティスは私たちのことが気がかりだと言っていた。それほど……」 沈黙を破ってジュリアスは言い、そしてそこで少し言い淀んだ。 「それほど、仲が悪いわけではない……と思わぬか?」 「さあ……」 ジュリアスが、ようやく口にした言葉を軽くかわすような返事をクラヴィスがしたことで、より一層の気まずい雰囲気が二人の間に広がった。ジュリアスは耐えきれず溜息をひとつついた。それに反応するようにクラヴィスが先に折れた。 「もういい……カティスの想いは解った。これからはせいぜい仲良くすることにしよう」 クラヴィスは、ぼそっとそう言うと立ち上がった。そして机の上のコインを手に取った。 「何処へ行くのだ?」 「カティスに逢いに……」 クラヴィスが、何処に行こうとしているか、ジュリアスにはすぐにわかった。 「コホン……では……私も一緒してもよいか?」 ジュリアスは、咳払いしながら言った。 「共にか? さぞかしカティスも喜ぶことだろう……いっそ……」 クラヴィスはジュリアスを見た。 「いっそ何なのだ?」 「手でも繋いで行くか……」 クラヴィスが、珍しく微笑みながら差し出した手に、ジュリアスは戸惑いながらも、そっと手をだし……。 「冗談だ」 クラヴィスはクルリと扉の方に向き直ると、ジュリアスを置いたままスタスタと歩き始めた。 「待て!」 ジュリアスは、クラヴィスの後を追うと強引に抜き去り、クラヴィスの前を歩いた。クラヴィスはジュリアスより半歩後ろにピッタリと寄り添った。 二人は執務室棟を抜け、中庭に出た。さらにそこから女王神殿の裏に続く森の入り口付近まで無言で歩いた。 |
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