伝説のコイン【パターンA】

この物語は、お誕生日なのに仕事に励む友人Aさんに捧げます……

 一枚の古い金貨があった。
 そのコインの表には美しい女王の横顔の、裏には聖地の正門のレリーフがあった。女王の名と造られた年代も彫られていたようだが、あまたの手に触れられた事により摩耗し、今は読みとれない……。

 ディアは、緋色の布を貼ったトレイの上に、そのコインをソッと置いた。
「このコインは、いつの御代のものかも定かではない、聖地に伝わる古のコインです。これを陛下が聖地の何処かに隠します。見つけた人が勝者です」 ディアが、そういうと、若い守護聖たちは色めき立った。

「勝者は何でも願いが叶えられるっていう、あの伝説の?」
ランディが聞いた。
「ええ、そうですよ、代々女王の交代間際になると、行われている由緒あるイベントなのですよ。陛下から皆様への感謝の気持ちを込めて行われ、その思いがこの不思議なコインに伝わると、願い事が叶えられるのです。でも身の程を過ぎた願いはどうなるかは存じませんことよ。そう言えば、昔、宇宙の帝王になりたいと言った守護聖がいたそうですよ。その願いを口にしたとたん雷が堕ちてその守護聖は瀕死の重傷を負ったそうですわ」

 ディアは喜々としてそう言うと、改めて、コインの乗ったトレイをズイッと皆の前に差しだした。
「じゃ、守護聖をとっとと辞めて聖地から出ていきたい、とかってのはどうなんだ?」
とゼフェルはディアに尋ねた。結構マジである。

「古い記録によると、それは叶えられなかったようですわね、邪な気持ち、我が儘な願い、そういったものは全て叶えられないようですわ」
 今度はディアは神妙に答えた。

「迷信だ……と言ってしまえばそれまでだが。私は聖地を去られる陛下が、後に残る我々に交流を図るようにとのご配慮のようなものだと解釈している」
 ジュリアスがそういうと、ディアは少し不服そうに言葉を継いだ。

「でもカティス様の時の願いは、ちゃんと叶えられたんですもの。わたくし、陛下と共に聖地に上がって間もなくの頃でしたけれど、カティス様が嬉しそうになさっていたの、覚えていますわよ」

「前は、カティス様が見つけられたんですか? 何をお願いされたのかなぁ?」
 マルセルが楽しそうに言う。
「カティスは果樹園の豊作を望んだのだ。そして、その年は例年になく、美味な葡萄が、たわわに実った……」
 クラヴィスが、マルセルの背後からボソッと呟いた。

「女王陛下交代のある年は、例えて言えば、新芽が芽吹く春のようなものだ。新しい女王の強い力によってあらゆる生命は、逞しく育つ。たまたまカティスの望みはそれに乗じたに過ぎぬ」
 ジュリアスの冷静な発言が少し面白くなかったのかディアは、直ぐさま、言い返した。

「けれども、こういうモノは信じてこそ楽しいのですわよ。女王試験も無事終わりました。新陛下の戴冠の儀式、そして今の陛下が聖地をお下がりになるまで僅かな間……聖地が一番慌ただしいこの時期だからこそ、こう言ったイベントもまた楽しいのですわ。どうぞ皆様頑張って下さいね」
 言うだけ言うと、ディアは緋色のトレイを大切そうに持って、しずしずと去って行った。

「ディアは些か楽観的すぎるように思う。今の時期は、戴冠式はまだとはいえ、聖地に女王陛下が二人存在する特別な時期。それだけにこの宇宙も聖地も不安定だと思える。コインの事は、古から伝わる行事のひとつに過ぎぬ事を念頭に置いて各々行動するように」
 ジュリアスはディアが去ったあと、皆にそう念を押したが、既に若い守護聖たちは、コインの事で浮き足たっていた。

「願いが叶うって、やっぱりホントじゃないのかなぁ」
 ランディが少し残念そうに言うと、マルセルも同じように言った。

「聖地の奥まったとこにある大きな樹があるんだけど、カティス様の頃から傷みが激しくて、どうしても元気にならないんだよ。そういうのを治して欲しいって言っても無理なのかなぁ……」

「だからよう、そういう曖昧な願いじゃなくて、物理的な欲求をすればいいんじゃねぇか? もしオレがコインを見つけたら、20875年式のレアなエアーバイクが欲しいって言うつもりだ。なんでも願いが叶うって言った手前のメンツで、どっかから都合つけるだろう、陛下もよぅ」
 ゼフェルは、ニヤリと笑うとそう言った。

「でもそれって、我が儘な願いに入るんじゃないのか?」
「うるせぇんだよ、ランディ野郎は。オレは心から純粋に20875年式エアバイクが欲しいんだよ」
 ゼフェルとランディが睨み合っている横からおっとりとリュミエールが言い出した。

「本当のところ、どうなのでしょうか? わたくしも、それは迷信の域を出ないものと思うのですが、聖地という場所柄、そして陛下の計り知れないお力を思うと、一抹の期待を寄せずにはいられませんが……」

「そうだな。前回のカティス様の例は、曖昧すぎて、本当のところはどうなのかわからない。もっと以前の事について何か文献は残っていないのだろうか?」
 オスカーは、ルヴァを見た。

「特に記録はないようなんですよ。さっきディアが言ってたような事例は、公的な文書として残っているわけではなくてですね、口伝えのようなものに過ぎませんし。カティスの場合も、私たちがカティスから直接聞いただけで、記録されていたわけではありませんし」

「前々回はどうだったのさ? クラヴィスとジュリアスも参加したんでしょ?」
 オリヴィエは一見、どうでもよさげにチラッとクラヴィスを見て言った。

「幼かったのでほとんど覚えていない」
 クラヴィスがボソッと呟くと、ジュリアスも頷いた。

「願い……って言ってもさ、ワタシたち、金銭的に困ってるワケでもないし、欲しいモノって手にほとんど入る環境じゃないの。ゼフェルの欲しいっていうエアカーだって、そんなモン、本当はお金を積めばなんとかなるんだろー、陛下に頼まなくてもさ」

「ヴィンテージエアカーのオークションで、大枚はたけば済むんだけどよ。でもオークションにも滅多に出ないんだ」
「あー私はですねぇ、新しい図書館を聖地にもうひとつ建てて欲しいんですよねー、手狭になってきましたし。できればエアシューターが私の執務室まで直結していて、本の取り寄せたがアッという間に……」
「バッカぢゃねーの、そんなモン、コインの力に頼まなくても、来期の予算委員会に提出すればすぐに通るだろよ。エアシューターはどうだかわかんねーけどよ」
「それでは、ゼフェルが勝手に聖地を抜け出さないように……私の授業をさぼらないように……と願うことにしましょうかねー、うんうん、そうしましょう〜」

「ま、待てよッ、ンなこと頼んだってなー、オレは絶対に守んねーからなー」
「でも、そういう願いでもコインの魔力のせいで抗えないって、ディア様言ってたよねー」
「うるせぇ、マルセル。オレがコインを見つけたら、チュピをサイボーグチュピに改造したいって望んでやろうか〜」
「そんなこと言うなら、僕はゼフェルのそのいじわるなとこを直して下さいって陛下にお願いするからね」
「ははは、それ俺もそうしようかなー」
「ランディ野郎! オレが見つけたら、てめーの飯、三食三度、シイタケのオリーブ炒めにしてやるからな」
「ゲロゲロ〜」

「あ〜も〜貴方たちの願いは、全部、叶えられっこありませんよ。我が儘な願いはダメだとディアが言ってたでしょう〜」
「あンだとぉ、じゃ、ルヴァのエアーシューターは我が儘じゃねぇのかぁぁ」
「あれはですねー……」
 マルセル、ゼフェル、ランディ、ルヴァは一塊りになりつつ、騒ぎながら、集いの間から去っていった。
 静けさが再び集いの真が戻ってきた。が、それは一瞬の事。

「おーおー、若いって熱いねぇ〜、あ、若くないのも一人混じってたけど。結構盛り上がってるじゃない。ま、仲間同士のいいコミニュケーションってヤツからしら〜、これがコイン探しのイベントの本来の目的?」
 オリヴィエがそう言うと、ジュリアスは満足そうに頷いた。

「オリヴィエは判っているようだな。私もこの事は、女王が交代しても残された守護聖同士、互いにコミニュケーションを取り合い、聖地を守ってゆくように……、という意味が込められてのものと解釈しているのだ」

「そそ。ま、あんまし必死になるのも大人気ないってカンジ。偶然、見つけたら、その時はそれなりにオネガイさせてもらうけどさ」

「それなりに……ってどのようなお願いなのですか、オリヴィエ?」
 リュミエールの問いかけにオリヴィエは、両手をバサッバサッと広げた。

「アタシねぇ、女王陛下のお衣装ねぇ……一度着たいんだけど、あのばさばさの羽、豪華よねぇ」
「陛下のお衣装を、ですか?」
「そだよ、アンジェにさ、アンタが女王になったら、いっぺん貸してよ、って言ったんだよ、もちろんアンジェは、『いいですよ〜オリヴィエ様、二人で着せ合いっこしましょう〜(キャッ)』 なんて盛り上がったんだけど、側にいたロザリアがえらい剣幕で絶対駄目だっていうんだ」

「……ロザリアが補佐官で正解だったようで……」
 リュミエールの呟きが終わらぬうちに、ジュリアスはオリヴィエ躙りよった。

「オリヴィエッ、本当なのか、その話しはッ。き、着せ合いとはっ!」
 ジュリアスはオリヴィエに躙り寄った。
「ジュリアス〜、アンタ、ワタシがぁ、女王の衣装を着る事に怒ってるのか、アンジェと着せ合いっこするのに怒ってるのか、どっちだろうねぇ〜」

「り、両方だ。当たり前ではないかっ、それにアンジェではなく、もう陛下とお呼びするようにと、通達は出してあるはず。まったくアンジェリークもアンジェリークだがっ」
「フフン、自分だって、今、アンジェリークって呼び捨てにしたくせに〜。なんだかね〜さ、ワタシもそろそろ失礼してコインとやらを見つける作戦でも練ろうかな〜」
 オリヴィエは、面白そうにジュリアスを横目で見ると、立ち上がり、スキップ混じりのステップで去っていった。

「結局、オリヴィエまでもああいう態度か。仕方のないことだ……」
 ジュリアスは溜息まじりで立ち上がった。
「執務室に戻られるのですか? ジュリアス様。では俺も自分の執務室に戻ります」

「ああ、執務室に戻る。ときにオスカー。そなたがコインを手にいれたら何を願う?」
 とジュリアスはオスカーに尋ねた。

「ジュリアス様と遠乗りに出掛ける休日が、いつも穏やかな良い天気であるように望みましょうか……」

「いささか、個人的すぎるきらいはあるが、まずまずの望みと言えよう……」「はっ」
 ジュリアスとオスカーは連れだって退室して行った。

◆◇◆
 

……結局、コインの見つからぬままに最後の女王謁見の日が来た。

 いつもは、薄絹のカーテンの奥に控えているだけの女王が、今日は、ディアよりも前に立っていた。
 慣例に則った一通りの挨拶が交わされ、各々の守護聖は一人づつ、陛下の前に傅き、それぞれの想いを込めて頭を垂れた。……が、その中に闇の守護聖の姿はなかった。

「クラヴィスはどうしたのでしょう?」
 ディアは困った顔をして、ジュリアスを見た。

「申し訳ございません。只今、館の方に使いの者を……」
 微かな溜息とともにジュリアスがそう言った時、謁見の間の扉が静かに開いた。
 クラヴィスは何事もなかったかのように、ゆったりと歩き、いつもの自分の立ち位置であるジュリアスの隣についた。

「皆の挨拶は、済んでいる。そなただけだ」
 ジュリアスは怒りを抑えた声で、クラヴィスにそう告げた。クラヴィスは女王の前に歩み出て、傅いた。

 女王は一歩前に出て、微かに礼をする。この時に、ねぎらいの言葉を掛け合う場合もある。だがクラヴィスは立ち上がり、女王の前から下がろうした。始終無言である。

 だが、その時、無表情だったクラヴィスの目に一瞬の戸惑いが走った。側にいたディアはそれに気づいた。

「クラヴィス、なにか?」
 クラヴィスはディアにそう言われて、その細い指先を女王に向けて伸ばした。

「コインが……」
 女王の肩先、肩飾りの上に、例の古のコインがソッと置かれていたのだった。

「まぁ、見つけたのね! クラヴィス、願いはあなたのものですわよ。陛下にお願いをお伝え下さい。人払いをいたしましょうか?」

 またすぐに無表情に戻っているクラヴィスをよそに、ディアははしゃいだ声をあげた。他の守護聖たちは、一応は、無言で事の成り行きを見守っていた。

「いや……それには及ばぬ……」
 クラヴィスは掌の中のコインを改めて見つめると言った。

「ではクラヴィス。あなたの願いを陛下に伝えて下さい。代々の女王の力を借りて、その願いが心正しきものであるなら叶えられるでしょう」
 ディアは、落ち着きを取り戻し、そうクラヴィスに告げた。

「私の願いは……」
 クラヴィスはそこで一旦押し黙った。

「願いは……陛下のこれからの人生が幸せであるように……」
 クラヴィスは小さな声でそう言うと、女王の手を取り、持っていたコインを、そっとその掌に包ませた。そして、クルリと背を向けると何事もなかったかのように、静かに歩き、謁見の間から出ていった。

 パタン……という扉の閉まる音で、残された皆は我に返った。

「ク、クラヴィス様……カッコイイ〜」
 とボソッと呟いたのはランディである。

「クラヴィス様ってば、決めちゃったってカンジだったね」
 次いでマルセル。

「ンなとこにあるとは思わねーもんな。あ〜オレのレアバイクゲットの夢は消えたぜ〜」
 ゼフェルは残念そうに肩を落とした。

「んもぉ〜陛下ったら、自分の肩先に置いとくなんて、お茶目サンだねぇ〜、ゲッ、まだ陛下の御前だった……」
 オリヴィエたちが、あせって振り向くと、女王はその場に座り込み、ディアがその震える肩を抱いていた。

「ディア……どうしましょう、大変……」

「陛下どうなさったの? 何が大変なんですの?」

「……伝説のこのコインはその力の封印を解き放ち、聖地に残る代々の女王の力を寄せ集め、もちろん、わたくしの力も少し……そして、その願いを叶えてしまった……」

「クラヴィスは、陛下の人生が幸せであるように、と願ったんですのよ、どうしてそれが大変……あ!」
 ディアははじかれたように小さな叫び声を上げた。

「わたくしの人としての幸せは……クラヴィス……クラヴィス」
 女王陛下が俯いたまま呟いたその時、その場にいた全員が既に、感じていた。
 闇の守護聖クラヴィスのサクリアの喪失を…………。

◆◇◆
 

 雨降って地固まる……の諺の通りに、一週間後、元女王陛下アンジェリークと、元闇の守護聖クラヴィスは、二人揃って聖地から去って行った。

 突然の守護聖交代に付きまとう悲劇も、この場合起こらなかった。クラヴィスから離れた闇のサクリアは、まったくもって上手い具合に、とある辺境の星の公園に捨てられていた生まれたての赤子の上に留まったのである。先刻まで己に宿っていたサクリアの行方を追ったクラヴィスは、このベンチの上で空腹に泣いている赤ん坊を、そっと拾ってくるだけで良かったのである。

「めでたしめでたし、ってか。なんか調子良すぎて面白くねぇ。オレん時とエライ違いじゃねぇかよ」
 とゼフェルは自分の交代の時の、突然のゴタゴタを思い出して、ふてくされて言った。

「それにしても、あの古ぼけたコインにそこまでの力があるとは思いも寄らなかったぜ、まったく」
 オスカーがそう言うと、皆が深く頷いた。

「クラヴィスの願いは、とても純粋でだったから、ああいう結果になったのでしょうね」
 ルヴァは少し瞳を潤ませてそう言った。

「クラヴィス様ってば、最後まで無口だったけど、シアワセそーだったですよね」
 ランディのそう言うと、オリヴィエがクククと笑い出した。

「そーそー。自分でもどういう態度取っていいのかわかんなかったみたいでさ、目だけで困ったよーな嬉しいよーな表情してんの、思い出しても可笑しいよ」

「ジュリアスもよ、納得いかねー顔しながら、幸せになるがよい、とか言ってやがんの。あれちょっと寂しかったんじゃねーか」

「あ、僕もそう思う。ジュリアス様、この子の事は安心してまかすがいい……とか言いながら寂しそうだったよね」
 マルセルは、自分の腕の中の小さな闇の守護聖を見て言った。

「不思議なものですね、こんなに小さな体から、クラヴィス様と同じサクリアを感じます」
 リュミエールは、愛おしげに小さな掌を見つめた。

「ところで、ジュリアスのヤロー、どうしたんだよ。守護聖の定例会議だからって、こんな赤ん坊にまで召集かけといて、わかりゃしねぇのに」
 ゼフェルは、その子のクラヴィスと同じような黒い瞳を見つめて言った。とその時、会議室の扉が開いた。

「わからずともよいのだ、その場の雰囲気を感じとることくらいは、その子にも出来よう。職務怠慢な守護聖には決してさせぬぞ」
 ジュリアスはそう言いながら、皆に席に着くよう促した。

「例のコインは、ロザリアの管理の元、宮殿の奥深くで、次代の女王交代があるまで封印されることになっているそうだ、一連の騒動は終わった。皆の者も心を引き締めて執務に励むがよい」

「今度、あのコインにお目にかかるのは、いつでしょうね……」
 リュミエールは、やけに神妙に言った。

「前例から見て、聖地の時間にして五年から十年くらいでしょうかね。あ〜私はいないような気がしますねぇ〜」
 ルヴァが何気なく言った言葉に、一同は静かになってしまった。

「何言ってるのさ。ワタシはいるよ、絶対! それでぇ、コイン見つけて、クラヴィスみたいに、アンジェリークに言うのさ、アンタのシアワセ祈るよ……ってね。んでもって、アンジェとラブラブエンディング〜」

「オリヴィエ様〜、アンジェも同じ気持ちならいいけど、違ったら、最悪だよね。アンジェったら別の誰かと出ていちゃうかも」
 ランディは、ちょっと気の毒そうにオリヴィエを見ながらそう言った。

「だからアンタはまだお子さまだって言うんだよ、アンジェが本当に好きな人と出ていく事ができたら、最高じゃない。好きな人のシアワセが一番、そういう清い心にコインの力が働くんだから。たとえアンジェと出ていくのがジュリアスだったとしても、ワタシは心からおめでとうを言うね!」

「な、何をそっ、そなたは言っているのだ、この私が、アンジェ……いや陛下とっ」
 ジュリアスが焦っているのをオリヴィエは冷ややかな目で見つめながら、言った。
「例えば、の話しじゃないのさ。何、焦ってるんだか。それに、順番から行くと、次は、アンタだもん、アンジェの女王交代まで持つかねぇ、ジュリアスのサクリア〜」
 オリヴィエはこれ以上ないくらい意地悪そうに、そして楽しそうに言った。

「あ、そうかぁ、どんなに相思相愛でも、アンジェの力が尽きる時にいないと無意味なんだよなぁ、やったー」

「おーランディ、おめーにも勝算あるぜ。残ったモン勝ちってヤツ」
「じゃ、僕たち結構、確率高いよねー」
 はしゃぐ若い三人の会話に、ジュリアスの思わず握り拳を作るのだった。
「クッ!」

 さて……次にこの伝説のコインの封印が解かれたのは、聖地時間で七年後の事であったが、それは、また別のお話…………。

『聖地の森の11月』 『こもれび』