6

 
 「なんでやねん!」
 とあれほど生理的に合わないと言っていた方言で、クリスティーヌは毒づく。発音は変だが。
「ジュリアスが入社して一年……と言うことは私が彼を落としにかかって一年ってことよ。なのに何故、一向に話が進まないのよぉ」
 美容パックが顔に貼り付いたままの姿で彼女は呟く。
「微笑めば微笑み返され、貴方の事が好きだと告げれば、ありがとうと言われ……、そしたらフツーは休日のデートに誘ってくるだろうにぜんぜん。一度、勇気を出してこっちから誘ったら、『すまない、クリスティーヌ、休日は乗馬に出掛けるので』と軽く断られて手も足もでないわ」
 クリスティーヌは仲の良い同僚女子の言葉を思い出す。
『貴女で落ちないんなら……これはもしかして女性には興味ナシなんじゃないの?』
 そうかも……と思い諦めかけた所に、翻訳部の美青年レイモンドがジュリアスにお熱という噂が社内を駆け巡った。が、どうやらこちらも纏まる様子はなく、一方的にレイモンドがジュリアスを慕っているだけらしい。
「まるで私みたい……。でも……レイモンドにもその気にならないんなら、別に男オンリーってワケでもないんじゃない?」
 と希望が湧いてくるのであった。
 
 一方、レイモンドの方でも……。
「ねぇ、レイちゃぁん、そのジュリアスって男の事なんかもうアキラメてさあ、新しい恋を探したらどうなのよ。もう一年近くも何の進展もないんでしょお 。根本的に男はダメなんじゃ仕方ないでしょ」
 と馴染みの店で、いかにもなママ(男性)に慰められていた。
「でも、クリスティーヌっていう超美貌の女に言い寄られて、そっちも進展無しなんだよ。女オンリーってワケでもなさそうだし」
「まさか両方ダメってことは? ほらぁ、主星系じゃなくてさぁ、別の……」
 とママが言うと、チイママ(もちろん男性)が、「あーー、いるいる、そーゆー趣味の人。ヒューマノイドより獣系とかちょっと触手系入った人種とかのーー」と便乗する。
「二人ともコロスよ?」
「いゃああん、レイちゃん、キレイな顔してそんなこと言わないのぉー」
「やば、レイちゃんなら一瞬、コロされてもいいかも……と思っちゃった……」
「ともかく……レイちゃんがそこまで惚れてるんなら相当な男なワケねえ」
「そうだよ。僕よりずっと素敵だ。高潔で綺麗で知性に溢れ……例えるなら、まるで光の守護聖様のように気品に溢れ……」
 チャーリーが側にいて聞いていたなら「……いや、そのまんまの例えですがな」と呟きそうだ。

「守護聖様のように……ね。確かにそれは遠い存在だわね」
「うん……。だけどジュリアスは一般人なんだから、僕と良い仲になってもいいだろう? パートナーは無理でも……遊びの仲でもいいんだ……いっそ……一度だけでも……」
 大きな溜息を付きながら、グイッと水割りをあおったレイモンドに、ママたちは「重症ね」と肩を竦めた。
 

■NEXT■


聖地の森の11月  陽だまり ジュリ★チャリTOP