そしてすぐに、他の事務所をあたってのみたのだが、言われることは一緒だった。よっぽどの熱意で上手く渡って行かないと最初の一、二年で飽きられて、後は泣かず飛ばす……だと。そこで、スッパリした気性の彼女は、芸能界には見切りを付けた。元々、それほど芸能界に憧れがあったわけではなく、ミス主星の肩書きさえあれば、一流企業への就職もすぐに出来、そこで玉の輿に乗ってセレブ一直線も容易いと考えたのだ。ミスコンの事務所を通してコネを付け、紆余曲折の末、彼女が手に入れたのは、ウォン・セントラルカンパニーの受付嬢。ウォン・グループを総括するウォン・セントラルカンパニーと言えば、比較的新しい会社であり、経営方針はユニーク、コネも美貌も個性のうちと内定をもぎ取ったのだった。
以降三年、彼女はウォン・セントラルカンパニーに入って良かったと心から思っている。受付の仕事だけでなく、広報誌や関連会社の新製品フェアのモデルに借り出されるなど容姿を活かせるオイシイ仕事もあるし、何より、
これだけの美貌でありながら芸能界入りせず堅実な道を選んだとして好意的に見て貰えるようになったからだ。加えて、付き合ってみれば意外と気さくないい人ねと女友達もたくさん出来た。むしろ好かれて困るほどに。
けれど、男が……恋人が欲しーーい……と言うのが彼女の本音だった。ほとんどの男性がチヤホヤ、デレデレはしてくれるものの、「どうせ恋人がいる」だの「オレなんか不釣り合い」と誰からもひかれ、たまにチャレンジャーが現れても、勘違い野郎かお金だけのイヤミ成金野郎だったのだ。
“ルックスがよくて高学歴、そして高収入な男はいっぱいいるのに……”
と溜息をつきながら彼女は雑誌の“イケメン実業家特集”を捲った。だがそういう男性の側にはもう既にステディな仲の者がいるのが常だ。いっそ奪い取れば……と思うのだが、性に合わないし、接点もないのにどうやって? とも思う。ウォン・グループのパーティやイベントに借り出される度に、出逢いを仕掛けはするのだが、仕事優先では、いまひとつ上手く行かない。
「身近にスゴイ逸材がいるじゃないの? ウォン財閥総帥が。貴女ならお似合いだと思うし、私たち応援するわよ」
と会社の女友達は彼女に言う。
たしかにソコソコ社長はイケてると思うし、この会社に入りたかったのも実は、半分以上はチャーリー・ウォン目当てだった……とクリスティーヌは思う。メディアで見るチャーリー・ウォンは、彼女の理想とする男性だった。堅苦しい貴族の出でない所も自分と釣り合うだろうし、気取りがないところも素敵だと思っていた。ルックス
まあまあ良し、財力申し分なし。けれど、その理想は入社式当日に崩れ去った。チャーリー・ウォンは立派な祝辞を述べた後、咳払いをひとつしてこう言った。
『……とまあ、以上は形ばっかりのお祝いの言葉や。実は俺、この通り、メッチャ方言キツイねん。対外的にはちゃんと喋ってるけど普段はこんなやねん。社内ではコレで通すから堪忍したってや〜』
“なんでなのよーっ、それなりに整った顔してるのにあのコテコテは何なのよーっ。生理的に方言が嫌い、嫌いなものは嫌いよぉぉ〜”
そんなワケでチャーリー・ウォンは、彼女の恋人候補リストから一応は外れた。一応……というのは、二十五歳過ぎても恋人ができなかったら、あの方言に目を瞑り、チャーリー・ウォンを落としにかかる……と自分に言い聞かせたからだ。
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