『誰も知らないウォン財閥の社史』


さらに秘密の……番外編


「けど、ホンマ、ビックリやったなァ。おじぃちゃんと親父と……ジュリアス様が面識あったやなんて。しかもやで、ウォン家聖地御用達のキッカケとなったんが、ジュリアス様やったなんて。だいぶ、ジュリアス様の話とは違うけど、おじぃちゃんの言い伝えもまんざら嘘と違うかってんなァ。なんかジュリアス様と俺、縁、感じるわァ」
 チャーリーは、枕をギューーウと、抱いて言った。
「ふふ、そうだな……」
 ジュリアスは、ワイングラスを手にしたままベッドの上にゆったりと腰掛けている。

「あっ、まさかジュリアス様、おじぃちゃんと親父とも関係あったん違う? ようある話やん。
”嫌とは言わせぬぞ、ウォン”
”止めてくださいジュリアス様、ご無体な”
”聖地御用達になりたくば、のう。よいではないか”
”あきまへん、俺は妻も子もあるノンケな体……”
”なぁに、そのうちよくなるものじゃ、このジュリアスの手にかかれば……”
”あ〜れ〜”
クルクルクルクル……」

 突如として始まったチャーリーの一人芝居に、ジュリアスは苦笑する。
「その、クルクルクルクル、というのは何なのだ?」
「お約束なんですわ、ジュリアス様は知らんでよろしー。そやけど、まぁ、そんなことあらへんか。おじぃちゃんも親父も、どっちかというとブ男やしなァ。手込めにしたいタイプとは違うし。良かった、ブサイクで。ジュリアス様に手ェ出されへんで」
「酷い言い様だな。私が誰かれとなくこういう関係になると思っていたのか」
「かんにん〜」
 ブンブンと頭を左右に振りながらチャーリーは言った。その仕草が可笑しくてジュリアスはまた笑ってしまう。
 本当ならば……と、ジュリアスは思う。本当ならば、守護聖である自分が、女王試験の協力者である主星民間人と関係を持つなどということは、ジュリアスの倫理観からいって考えられないことであった。それが、罪悪感が支配する逢瀬にならないのは、ひとえにチャーリーの性格によるものだということを、ジュリアスは強く感じていた。

「チャーリー……」
 ジュリアスはワイングラスをベッドサイドのテーブルに置いた。チャーリーはニコッと笑って、自分の上に重なってきたジュリアスを受け止めた。ジュリアスの長い髪が、はらりとチャーリーの頬にかかる。
「ジュリアス様、こそばい。これで、結わえてくれはらへん?」
 チャーリーは傍らにあった自分のバンダナを、ジュリアスに渡した。
「うむ」
 ジュリアスは身を起こして、髪を束ねる。

「それあげる。俺、同ンじの持ってるし。お揃いやなー。それで、今度の日の曜日、庭園でデートせえへん? うわ、なんか俺らの仲バレバレかも!
”ねえねえ、ちょっと見て、アンジェリーク"
”なぁに、レイチェルぅ〜”
”謎の商人さんとジュリアス様、さりげにペアルックだわ!”
”ええっ、イヤァァ、ショックぅ、私、謎の商人さんのことアコガレてたのに〜”
”相手がジュリアス様だったなんて、乙女の純情、真っ二つだわ〜”
”いやだぁ、私もうショックでグレちゃうかもーー、シクシクシクシク〜”

ああ、許したって〜、罪な男、チャーリーのバカバカバカバ……あ、あはは、またやってしもうた……」
 呆れて見ているジュリアスを前に、チャーリーは頭を掻いた。
「そなた……少しは黙れないのか? そう話してばかりいられては、事が進まぬ」
 ジュリアスは肩を震わせながら言った。
「事やて、うわ、なんかやらしー、ジュリアス様、事ってどんな事、あーんな事やこーんな事……」
「チャーリー!」
 ジュリアスは少し咎めるように、自分の下になっている男の名を呼んだ。
「ご、ごめんなさい、もう黙ります、何も言いません〜」
 チャーリーは、そう言うと唇をキュッと噛んだ。その口元は、ウズウズしているが。
「それでいい、私がいいと言うまでそうしているように」
 ジュリアスは、やっとチャーリーの首筋に唇を運んだ。
「ジュリアス様、ちょっとだけ……タンマ」
「何だ?」
「もう黙るけど……、そやけど、ああンとか、もっと〜、とかは言うてもええ?」
 チャーリーは真剣にジュリアスに尋ねた。
「もう知らぬ!」
 お互いの目は思い切り笑っている。そして、強引にジュリアスは唇を重ねた。それを受け止めたチャーリーの唇は、その賑やかさとは別にとても優しく静かだった。それが本当のチャーリーの心の中だと、ジュリアスは見抜いている。だからこそ、彼に惹かれるのだと。
「めっちゃシアワセ……」
 チャーリーは小さく小さく呟いた。

続いてたりなんかして……

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聖地の森の11月  陽だまり