主星・ウォン・セントラルビル社長室−−−。
ジュリアスのデスクの上の電話が鳴る。
「はい、社長室、サマーです」
ジュリアスが答えると、いつも交換手の心地良い声がする。
「おはようございます、サマーさん。フィリップ・フィナンシェ様からお電話です。お繋ぎしますか?」
フィリップは律儀に勤務時間帯は外線経由で電話を掛けてくる。チャーリーに用がある時でも直通ではなく、一旦、秘書であるジュリアスを通してコンタクトを求めてくる。
「ありがとう。繋いでください」
ジュリアスはそう言い、電話が切り替わるのを待つ。
「ジュリアス様、おはようございます。朝一番から申し訳ありません」
「おはよう、フィリップ」
「昨夜、チャーリーからメールを貰いました。元気で帰って来たと。今日は出社すると書いてあったのでとりあえずお見舞いの言葉だけでもと。もし仕事に差し支えがないようなら代わって頂けたら……」
「そなたにも随分と心配をかけてしまったようだな。チャーリーは……今日はまだ……不在なのだ……」
なんとも歯切れ悪くジュリアスは答えた。
「やはりまだ本調子ではないのですね……」
大事故の後とあっては、フィリップも心から心配している様子だ。
「戻ったばかりなので、念の為、今日一日は休養を取るよう勧めたのだ……」
ジュリアスは心の中で汗を掻きながらそう言い繕った。
「そうですね。いくら精神的にタフで前向きな性格の彼でもやはり生死にかかわるような目にあって疲れているんでしょう……可哀想に……。悪くならないと良いのだけれど」
フィリップの声は沈んでいる。
「いや……明日には……出社できると思うので……」
「そうですね。こっちが焦ってしまっては、いけませんね。彼が元気な顔で出てくるのを楽しみにしています。どうかよろしくお伝え下さい。では失礼します」
フィリップとの通信を終えた後、ジュリアスは渋い顔をして昨日の事を思い出した……。
昨夜シャトルは無事、主星へと到着した。メディカルリカバリーシステムによってチャーリーの体はほぼ回復しており、怪我も僅かに傷跡を残す程度になった。骨折した足はまだ少し違和感があり、引きずってはいるのだが。そして、館についたチャーリーが、執事や使用人たちに挨拶
をした後、夕食もそこそこに妄想を現実にすべく行動に出たのは言うまでもない。
チャーリーに記録によると99回目のソレは、彼の予想通り、久しぶりの事であった為、それまでの最短到達記録を大幅に更新した。とりあえずスッキリした所で、チャーリーは積極的に第二ラウンド突入を開始し、これもまた自身の妄想シミュレーションを現実にすべく【カラダは正直やで大作戦】に取りかかったのだった。
彼の思惑通り、ジュリアスとて生身の健全な成人男子、確かに体は正直だった。しかし、ただでさえ正直になっている所に、チャーリーの【舐めつくし理性粉砕大作戦】は絶大な、いや、彼の予想を遙かに越える効果があっ
たのだ。とりあえずのスッキリ感を求めて行った一ラウンド目とは違い、事故後のチャーリーの体に対する思いやりと溜まった欲望とが相俟って二ラウンド目は、それはそれは、まったり時をかけて甘く
激しく……。記念すべき百回目のソレに相応しい濃厚さでジュリアスは、チャーリーの【舐めつくし理性粉砕大作戦】の倍の時間をかけて完膚無きまでにチャーリーに愛撫をほどこした。チャーリーの理性は粉砕どころか跡形もなく溶けて流れた。だがそれは
もちろん単なる前戯に過ぎず、そこから大いなるクライマックスに突入したのだった……。
結果、目覚まし時計のアラームが鳴っても、チャーリーはベッドから起き上がる事ができなかった。心配してチャーリーの部屋を覗いたジュリアスは、目は開いているのに枕を抱えたまま動かない彼を発見したのだった。
「こ……腰に……きました……、それにまだ余韻で……ムラムラスイッチがONとOFFの間で壊れた〜」
と涙目でジュリアスに訴えたのだった。
「私としたことが、つい。……すまない、怪我が完治したので大丈夫だと思ってしまって……」
ジュリアスは素直に詫びる。強制的な睡眠、及び安静状態が続いてチャーリーの筋力はかなり落ちていたことをジュリアスは計算に入れてなかったのだった。
「今日はやはり出社するのは控えた方がいい……」
「うう……。フィリップやブレーン室長、食堂のオバチャンにまで、今日から行くでーーとメールしたけど、俺、どうにも起きられません……」
「皆には私から上手く言っておく」
「昨夜の私とのえっちが激しすぎてチャーリーは起き上がれぬのだ……って言うてもエエですよ」
枕に半分顔を埋めたチャーリーが言う。目が笑っている。
「口だけは元気なのだな。からかうのは止めてくれ。私は心底、反省しているのだ」
「ジュリアス様が反省しやなアカンほどの事をされて、俺、どんだけ天にも昇る気持ちやったことか。もう一夜明けてもカラダの芯が疼くぅ〜」
「と、ともかく私は出社するから。そなたは安静にしていてくれ」
「はぃぃ〜、いってらっしゃい。なるべく早く帰ってきてね……って新婚さんか、俺! いや、でも昨日は新婚さんなみの……むふふ、ぐふふ……」
「ええい、もう黙らぬか。妄想と口に回す体力を、体の回復の方に使いなさい」
「そら無理や。俺は頭とアソコとその他に体が区画分けされてますねん。それぞれ独立採算制やからそう簡単にはエネルギー配分できませんよ。まあ、頭とアソコは時々、ホットラインで結ばれてて、アドレナリンとか即渡し出来ますけどネ」
チャーリーの口は減らない。ジュリアスを肩を竦め、彼にしては珍しくトボトボと出社したのだった。
ジュリアスは、溜息をつきながら、留守中にたまった仕事を処理すべく、書類に手を伸ばす。とたん電話のアラームが鳴る。かかってきたのは、チャーリーが出社していると思っていた人事部長からだ。フィリップに言ったのと同じような言い訳して電話を切った後、また昨夜の事を思い出してしまう。
“本当に不覚だった……チャーリーが無事だったという喜びと、久しぶりの房事……ということで、つい理性に欠けるひとときを過ごしてしまったが…………………………よかった”
その頃、つい漏らしてしまったジュリアスの本音など知る由もないチャーリーは、一人になったベッドでまどろむ。何気なく寝返りをうってしまい、「アタタタタ、腰が、腰が重痛いッ」と苦しむのだが、すぐににやけた顔になる。
“遠いセクター5まで迎えに来てくれたジュリアス様、うっとおしい連中のいる控え室で俺の生還を待っててくれたジュリアス様、自分の身繕いも忘れてものすごー野性味あふれるジュリアス様、俺が生きててついポロリと泣いてくれはったジュリアス様、そして昨夜のジュリアス様……。今、俺の中はジュリアス様でいっぱいや〜”
「あんな夜がアリやったら、たまに不在にするのもエエもんやなあ。うへへへへへ、うへへへ……」
デレデレと身悶えながら枕を端をモジモジと弄びつつ、シアワセいっぱいで二度寝に落ちていくチャーリーであった。
E・N・D
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