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 多少、結果オーライの脳天気さはあるが、誰にでもサービス精神旺盛な性格であるが故に愛され、この若さで財閥総帥が務まっていると思うと、さすがに少し言い過ぎたかも知れないと思ったザッハトルテは、「そうそう、そういえば、先の聖地杯の……」と話題を切り替えることにした。

「あのレース、三着なので賞金もかなり出ましたし、ウォン&ヒヒン薬品の良いPRになったようですよ。ヒヒン軟膏の注文が、あのレース以降、三割増し 。今期の決算、上方修正が出ますよ」
 明るい話題なら、いつもは速攻で乗ってくるチャーリーだが、まだ些か反省中らしく、「そら、ええPRにはなったけど、ヒヒン軟膏は業界ではもう充分知られてるし、ニーズかって限られてるし。これから先、新処方のフィナンシェホースクリームが発売されたらどうなるかわからんよ……」 と珍しく冷静に答えた。

「う〜ん、ヒヒン薬品も所詮、馬だけが相手の軟膏を作ってるだけではしれてるよな。売り上げも頭打ちや……」
 経営者らしく苦み走った表情のチャーリーに、ザッハトルテは、“良きこと哉”と思う。
「……馬に効くもんは人間にも効くで……ということで成分を少し替えて香料も加えてハンドクリームを売り出してみたけど、いまひとつパッとせぇへんかった。モノはええのに。パッケージもネーミングもダサイ のが原因やと思う。ヒヒンハンドクリーム・馬の花……これでは購買意欲、湧かんわー。企画の段階で俺が絡んでたら、もっと売れそうな提案出したのに。例えば、 ベタとはいうものの、メッチャいけてるパッケージデザインにして若い女性をターゲット。イケメン男優にでもCMさせて……」
 指の上に顎を置き、眉間に皺を寄せて、何か考え込むように瞳を閉じたチャーリーは、確かになかなか良いものだ……とジュリアスも見直す。だが、その時、チャーリーの中で例のスイッチが 、静かにオンになる……。

“イケメン俳優と言うてもギャラが高いばっかりで、俺の方が男前やと思うけどなー。あ、そや、いっそジュリアス様が出たらどやろ? 絵面的には、白馬に跨ったジュリアス様がさっそうと登場 。場所は爽やかな草原あたり。そよぐ風、青い空、白い雲、そのままカメラはバーンして、駆けていく馬とジュリアス様を捉える。なびく金髪の先から舐めるようにカメラはジュリアス様の横顔を映し出す。くーっ、その凛々しい美しさ! ちょっと速度を落とした所で、ジュリアス様はチラッと横見て、流し目で……。ああっ、視線でコロス! コロされてもかまへん〜っ。そしてそこでナレーションが入るッ。当然、例のジュリアス様のエエ声で、ヒヒンハンドクリームでそなたの手はしっとりと美しく……とかなんとか言うわけや。買う! もう絶対買う! 販促でポスターとか駅に貼ったら取られまくり! あの白馬の人は誰? と問い合わせが広報にはバンバン入る。やがてジュリアス様には映画出演のオファーが入り、芸能界進出! 全宇宙の女性とソッチ方面の男性の心をゲットしまくり……ってアカンやんッ 、ジュリアス様が皆のものになってしもうたらッ。ジュリアス様は俺だけのジュリアス様やないとアカン〜、ジュリアス様は俺だけのモンや〜。いいや、待てよ〜、ジュリアス様と俺が密会……おおぅ、密会、隠微な響きッ……こっそりどっかに出掛けた先でチュウしている所をフォーカスされるんや。二人して、こう手でフラッシュを避けてるような写真を撮られて…………。 その翌日の新聞に………………。

衝撃!熱愛発覚!白馬の似合う男優ジュリアスと主星経済界の貴公子チャーリー・ウォン 

 そしてジュリアス様は大勢の記者に問い詰められて、言うんや……私はチャーリーを愛している! と全宇宙的カミングアウトッ
くーーーっ、泣ける展開や〜。美男同士の関係に世間は結構温かい、俺らは宇宙一のシアワセ(はぁと)カップルさんとして公認の仲になると……めでたしめでたし……

 妄想ギアが全開どころか完全に外れてしまっているチャーリーに呆れ果て、ザッハトルテとジュリアスは立ち上がる。
「もうそろそろランチタイムですね。少し早いですが行きましょうか? 確か今日は、チャーリーは、広報部の皆とランチミーティングでしょう? ちょうどいい。放って行っても差し支えない」
「そうですね……」
 ジュリアスも頷き、二人は、自分の世界に入ったままのチャーリーを残して出て行く。
 

■NEXT■


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