『誰も知らないウォン財閥の社史』 外伝 1 


 
 ジュリアスとの離れ離れの週末、チャーリーは、散々な成績で接待ゴルフを終え、プレイ後の食事会と酒の付き合いも、体調不良を理由にそこそこに切り上げた。

 時刻は10時過ぎ。館に戻ったチャーリーは、いつものように元気よく、「ただいまですぅ〜」と言いながら、部屋に入った。
「早かったではないか?」
 ジュリアスは、風呂上がりに軽くストレッチをしていたらしい。床の上に簡易なマットが敷かれていた。まだ少し湿った髪を無造作に束ねて、 シンプルな白いTシャツとスポーツウェアを着ていた。むろん、一般庶民の着ているものとは、一線を引く上質なものであるが。
「飲み会は早めに切り上げてきました。ゴルフの成績もイマイチやし。けど、契約の話は順調につけてきましたよ」
 えっへんと自慢するように言ったチャーリーに、ジュリアスは、「それは、お疲れさまでした、社長」と、笑いながらわざとそう言った。
「イヤヤなあ、もう、館でまで社長はやめてください。ジュリアス様の方は、ジムはどうでした? ザッハのおっさんとの勝負は?」
「うむ。なかなか有意義であった。だが、リチャードには敵わなかった。やはり私の筋力は随分、落ちているようだ。もっと鍛えないといけないな」
 ジュリアスは、腕を軽く曲げながらそう言った。

「これのどこがアカンのです?」
 チャーリーは、ジュリアスのしなやかな上腕に触れつつ言った。
「年齢的には駄目ということはないが……」
「腕から肩、鎖骨の線もカンペキやし」
 チャーリーの指先は、ジュリアスの鎖骨のくぼみをそっと撫でる。
「胸板かて厚いし……腹筋かて……」
 チャーリーは、ジュリアスの胸を触った。シャツの上からではあるが、ほどよく綺麗についた上腹筋が判る。指でその一筋づづを辿るチャーリーである。
「下腹なんか、まだまだ出てくる兆しもあらへんし」
 チャーリーは、さらにジュリアスの下腹部をさする。たるんだような柔らかさはまったくなく、ビシッと引き締まった固さがある。

「さっきから、そなたは随分、私の体を撫で回しているが……」
 ジュリアスの目が、キュウ……と細くなった。心なしか頬が仄かに赤い。
「それは、もしや誘っているのか?」
 チャーリーにしてみれば、そんな気持ちはなく、純粋にジュリアスの肉体美を愛でていただけなのだが、そう言われては、違うとは言えない。コクンコクンと素直に頷くと、ジュリアスが 、笑った。

“アカン〜、悩殺の微笑みやーー”

「そうか、それでは、一緒に……」
 と言って、チャーリーの手を取りかけたジュリアス……。
 だが、チャーリーは、ハッとして、ジュリアスの顔を下から覗き込むような形で恨めしそうに見つめた。
「待ったッ! それでは一緒に……地下のジムで一汗流そう! とかそういうオチと違いますかッ。その手には、乗りませんよーっ」
 チャーリーにそう言われたジュリアスは、珍しく、一瞬呆けたような表情になり、その後、きまり悪そうにスッとチャーリーから目を逸らした。
「あ、いや……」
「何ですのん? そのリアクション……え? ええっ?」
「私は……寝室に……と……」
 ジュリアスは、小声でそう言った。
「……うわ……嬉しくてキゼツしてもええ? ジュリアス様、お姫様ダッコで俺の事、運んで〜」
 チャーリーは、細い腰の姫が感情高ぶって気絶するシーンを再現するかのような仕草をふざけてし、ジュリアスにもたれ掛かって悶絶しながらそう言った。
「無茶を言うな。いくらなんでもそなたを抱け上げられるものか。リチャードのように鍛えたとしも無理だ」
 ジュリアスは、チャーリーの背中を、寝室の扉の方へ押した。
「と、とと。そないに押したらコケますやん。そやけど、ザッハのおっさん、そんなに鍛え上げてるんですか? 運動音痴やとばっかり思てた」
「彼は骨太の家系なだけだと笑っていたが、背中から腰にかけての筋肉が実に見事な、美しい体をしていた。シャワールームで見たのだが」
 何気なく言ったジュリアスの言葉に、チャーリーは、キッとして振り向いた。
「あくまでも純粋にザッハのおっさんの肉体美を褒め称えた発言……ということは判ってますけど、なんかムカツきますわ。俺もジュリアス様にウットリして貰えるよう体を鍛えます ! 特にココッ!」
 チャーリーは、自分のヒップをピシッと叩いた。
「そうだな。そなたもゴルフだけではなく、もっとトータルに筋力をつけられるようなスポーツをした方が良いかも知れぬ。なんなら、やはり地下のジムで一汗流しに行こうか?」
 ジュリアスは、側にあったスポーツタオルを手に取りかけた。

「んも〜、ジュリアス様ッ。と・り・あ・え・ず〜、準備運動を先にしてからにしませんか?」
 チャーリーは、寝室の扉を開けながら必死の形相で言った。
「うむ……些か心拍数が上がりすぎるウォーミングアップのような気がするが……」
 真顔でそう言ったジュリアスの言葉に、一気にアドレナリンが駆けめぐるチャーリーであった。


  さて、この後、二人の心拍数がどこまで上がったか……
それは貴女の心の中で……。

お約束、チャンチャン。


あとがき

このお話しは、『22222番』をゲットした暁さんからのリクエストで書きました。ほのぼのして、ちょっとホロリ……というリクエストとはかなり違うのは、許して頂戴ね〜。そして、相変わらずヌル〜い終わり方で、ゴメンナサイね。ほほほ〜。
このジュリアス×チャーリーのお話、連載中は、ほとんどどなたからも感想を頂戴できず、こんなカップリングに誰も読んでくれていないんだわ〜、とやけっぱち気味アップしていた (でも書くのはとても楽しかった)のを思い出します。
その後、何ヶ月、何年もしてポツポツと、『あれ、面白かったよ』などというお声を頂戴して、ちょっとうれしい私なのでした。今回はどうでしょう……まだ読んでくださっている方いらっしゃるかなぁ……。こんな短いお話しですし、感想もヘッタクレ(^^;もないでしょうけれど、掲示板やメールで読みましたよー、と言って貰えると、嬉しがってまた書きますのでーー。(*^^*)
 


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