『誰も知らないウォン財閥の社史』 

外伝1 体育会系なふたり


 
「ジュリアス様、この書類、ザッハのおっさんの所に回してくれはる?」
 チャーリーは、書き上げたばかりの書類を、ジュリアスに見せながら言った。
「チャーリー、副社長に対してそのような呼び方は無礼であろう。彼は、まだ三十歳、親しみを表す表現にしても失礼ではないか」

 “ザッハのおっさん”または、“あの七三分け頭”……などとチャーリーが呼ぶ男の本名は、リチャードソン・ザッハトルテという。チャーリーの秘書部長兼、ブレーンスタッフとして 長年勤めあげた後、数ヶ月前に副社長に就任したのである。
 切れ者だが生真面目一徹のザッハトルテは、表だったポストより、一秘書としてチャーリーの補佐をすることを望んだのだが、あれやこれやの会社の事情により、副社長になってしまったのだった。
 
 さて、彼が副社長になり空いたポストに入ったのが、誰あろう元、光の守護聖であり、チャーリーのパートナーであるジュリアスであった。
(ここらあたりの詳しい事情は、本編をお読み下さいまし〜)

 と、その時、隣室の秘書部の者が、「副社長がいらっしゃいました……」とタイミングよろしく伝えにきた。ややあって、リチャードソン・ザッハトルテが、相変わらずのキチンとした身なりで入室してきた。 七三分けの地味なヘアスタイルと銀縁のメガネ、鉄板が背中に入っているかのように姿勢が良いのが特徴である。

「おはようございます、リチャード。丁度、貴方の所に行こうと思っていたところです。先日、依頼された書類をお渡しに」
 ジュリアスは、先輩に礼を尽くしつつも、親しげにファーストネームで彼を呼んだ。
「おはよう、ジュリアス。それは良いタイミングでした。もう出来たんですね。さすがだ。この地域の言語は訳せるものが少なくて、翻訳部の人間でも骨が折れるのに 、君にお願いして良かった、ありがとう 。……おや、新しいネクタイですね、良い色合いだ。とてもよく似合っている」
「まだこういった服装選びは苦手なのですが、初めて自分で選んでみました。そう言って貰えてホッとしました。ああ、ところで、 中間報告の第五部門の当期損益率のことで少しご意見を……」
 朝のビジネスマンの会話は続く……。それをチャーリーは、あんぐりと口を開けて見ていた。

 (ちょっと待て。ザッハのおっさんのことを、リチャードやて? アイツも、いつもジュリアス様を呼び捨てにしくさって。何がネクタイがよう似合うや。今までジュリアス様のネクタイ選んでた俺に対する嫌味?  中間報告の当期損益率の事? なんで俺に聞いてくれはらへんの〜、ジュリアス様〜。ザッハのおっさんの方が仕事できると思うてはる?……む、むかつく……。かと言って、ここでワァワァ言うのは、ジュリアス様のもっとも嫌うところの大人気ない行為……)

「では、ジュリアス、またあとで」
 チャーリーが悶々としている間に、ザッハトルテはアッサリと帰ってしまった。
「なんや、アイツ、俺に用と違うかったんか?」
「いや私の書類に用があったようだな」

 ザッハトルテが去り、二人きりになったので、ジュリアスは言葉使いを普段のものに戻して言った。チャーリーに対する言葉使いを仕事用とプライベートに徹底して分けたいジュリアスであったが、『そこまでするとシンドイ』というチャーリーの願いで、とりあえず、社内でも二人きりでいる時に限っては、普段のままで、となっ ているのだった。

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