「何があった?」
クラヴィスは女王の部屋を開けるなり、側にいたロザリアに聞いた。
「泣いておいでなんです、もうわたくしでは手に負えません」
ほとほと困ったような顔をしてテーブルに伏せて号泣している女王をロザリアは指差した。
「どうなさいました?女王陛下」
クラヴィスは跪き尋ねた。
「さっきテレビのニュースで、私の住んでいた家の近くが映ったんです、大きな火事があったとかで。付近の人がインタビューされてたんですけど、その一人が同じクラスだった子で〜あーん、もう八十歳くらいのおばあちゃんになってたんですぅぅ〜、それと火事になったのは、とーっても美味しいケーキ屋さんだったんですよう、朝一番に焼きたてのチーズケーキを限定販売するんですけど、三十個しか売らなくて、私よく学校さぼって買いに行ったりしてぇ〜、聖地に上がってからも実は一回こっそり買いに行ったんですけど、あっ、これジュリアス様には内緒にして下さいね、私、女王なのに叱られてばっかりで……私ってやっぱり女王に向かないんじゃないでしょうか? でも今更、下界に帰ったってパパもママもいないし、お友達はおばあちゃんになってるし、お気に入りのケーキ屋さんは火事になっちゃったし〜わーん」
と、泣きじゃくりながら女王は言った。溜息をつきながらクラヴィスは「安らぎのサクリア」を女王に放とうとした。これが一番効くのだ。こんな時はクラヴィスのサクリアを少量放つと大抵は落ち着きを取り戻すのだった。
が……
(しまった、先ほど全部サクリアを放出してしまったので、もう今は空だ……)
クラヴィスは仕方ないので、そっと女王の肩を抱き、その背中をトントンと叩いてやった。母親が赤子を眠りにつかせる時のように。サクリアは空だが、体にしみついた安らぎのサクリアが、クラヴィスの手からごく少量だが直接触れる事によって放たれるのだ。
ようやく女王が寝入るとクラヴィスはそっと抱いていた手を離し、その体をベッドに横たわらせると一目散に壺へと走って行った。