聖地の夜、ジュリアスは早足で王立研究院の奥の間に向かう。その身に溢れんばかりのものを抱えては、走りたいが、走れない。ジュリアスがやっとの思いで奥の間に辿り着くと、先客があった。「クラヴィスか……」 息も絶え絶えにジュリアスは言った。
「お前がこんな時間にここへ来るとは珍しい」
「そなた、今から出すのか……?」
「私は大抵この時間に出すのだ。随分溜まっているようだが先にやらせてもらうぞ」
クラヴィスは、奥の間の中央、一段高くなった台座の上に置いてある巨大な壺に手をかけた。その壺は、宇宙を思わせるような深い黒とも青とも見える色をしており、大きく開いた口の縁が金色、三本の小さな足が付いており大人が三人、手を繋いでやっと囲める程の大きな壺である。
古の昔からそこにあり【虚無の壺】という名で呼ばれていた。上から覗き込むとまさにその中には星をちりばめた宇宙空間が見える。「はぁ、はぁ、早く、早くしろ……あ、も、もう……我慢できぬ」
とジュリアスは思わず壺に駆け寄る。「順番だ、私とて随分溜まっているのだ」
とクラヴィスは意地悪く言うとジュリアスの前に立ちはだかった。「で、では、一緒に」
「集中できるよう、一人づつ行うように指導しているのはお前であろう?」
「時と場合によるっ、私とてこのように急な事でなければ……あ、ああっ」
ジュリアスはついにその場に膝をつく。「ほう?漏らしたか…筆頭守護聖ともあろうものが」
とクラヴィスは軽蔑したように言う。「くっ……やむをえんっ」
ジュリアスはクラヴィスを押しのけて壺の縁に手をかけた。「はぅ〜」
ジュリアスは金色に光る壺の縁に右手を置き、左手は壺の中に向けた。「お前が漏らしてしまった事は内緒にしてやろう」
とクラヴィスはジュリアスと同じように壺に向き合った。クラヴィスの手からは濃い紫のサクリアが、ジュリアスの手からは金色のサクリアが壺に向かって解き放たれてゆく。