夕暮れ……皆への挨拶を済ませたジュリアスとクラヴィスはパスハの待つ、次元回廊に赴く。見送りは止めるように言われていたので、リュミエールとオスカーは、二人の後を木陰に潜みながらそっとつけている。王立研究院の入り口近くまで来て、クラヴィスは、その気配を感じ振り返った。 「ででこい、リュミエール」
とクラヴィスが言うと涙目になったリュミエールが木陰から俯きながら歩み出た。その後ろに、さすがに涙は見せぬものの蒼白な顔のオスカー。
「申し訳ありません……我慢できなくて……わたくしは」
「もう泣くな」
と言ってクラヴィスはそっとリュミエールの手を取った、そして、「私の最後のサクリアだ……お前に安らぎを」と思いを込めた。静かに深く染みわたるようなクラヴィスのサクリア……だがそれは以前の力強いサクリアではない……リュミエールは本当にクラヴィスとの別れの時が来たと実感したのだった。オスカーはただ静かにジュリアスを見ていた。今まさに没しようとする日輪の中で、この上なく美しいジュリアスの姿に息を飲んで佇んでいた。初めて聖地に召還された時も、この人はこんな風に太陽の中に立っていた……、とオスカーは記憶をまさぐる。
「オスカー、ありがとう」
とジュリアスは微笑みながら言う。「さようなら、俺の……」
思いがけぬジュリアスの暖かい言葉にオスカーの言葉が小さくなる、何と言ったかはジュリアスにしか聞こえない。「行くぞ、クラヴィス」
オスカーの言葉に胸が詰まるのを押し隠してジュリアスは言う。クラヴィスもその言葉にリュミエールの手を離した。ジュリアスとクラヴィスの後ろ姿にオスカーとリュミエールは深く頭を下げた、二人が見えなくなるまで、ずっと。