Section 8 発 見

   
 聖地から次元回廊を経由し、最後にポットから送られた信号が示したゼータSP域のボイントに着いたジュリアスは、サルベージ船の運航システムを一旦停止させた。 宇宙空間に、漂うガスや塵が反射して輝く青白い星雲が向こうに見えていた。ぐるりとモニターの位置を変えると超新星の残骸も見えている。宇宙とは、案外、賑やかな所なのだな……とジュリアスは思う。何もないような空間、星の瞬きだけが微かに見える漆黒の空間のイメージは、ジュリアスの中で一掃されていく。彼は、ゆったりと座り直した後、瞳を閉じた。聖地とのコムリンクを一旦切ると、ジュリアスの生命を維持するためのシステムが作り出すごく僅かな音だけの世界になった。その静謐の中で……。
 
 私ならば、たとえ、宇宙の端と端に離れ離れになったとしても、クラヴィスを見つけ出すことが出来る。あれのサクリアのする方向を追っていけば、必ず辿り着く。私には判る。闇のサクリアが、どこにあるかが……。
 
 見た目の上下左右の定まらぬ宇宙空間の中で、ジュリアスは、クラヴィスのいるであろう方向を、自分の感覚として微かに捕らえる。大雑把ではあるがその方角に座標を設定すると、ジュリアスは船を 小ワープさせた。先ほどよりは確かに強くクラヴィスの気配がしている……そう思う方向に、ジュリアスはスキャンをかけた。数分後、電子音がなった。パネル上では、原点をこの船とし、宇宙船の前、後、上、下、左、右、各セクターで区切り、反応している箇所を点滅させている。
「他の宇宙船ではあるまいな? 船籍をキャッチできるか?」
 ジュリアスは、船のシステムにそう語りかけた。

【船籍はありません。船ではありません。脱出ポットです。個体コードをキヤッチしました。誘導ビーコンも出ています。目標物に間違いありません】

 聖地に係わる者だけが読み取れる発信コードが、ジュリアスの前のモニターに映し出された。
「目標物への到着時間は?」
【2.12.38後です】
「もっと早く」
【乗員及び船体の負荷を考慮して、1.53.47後にまで短縮できます】
「それでよい」
 ジュリアスは、操縦席のシートに深く座り直すとクラヴィスのいる方向を見つめた。
“見つけた……”
 心の底から温かいものが沸き上がってくる。ジュリアスは、大きな深呼吸のような溜息をついた。 
 
 一時間五十三分四十七秒後、ジュリアスは、クラヴィスの乗ったポットが肉眼で見える位置に着いた。長いアームを駆使し、ポットを掴むとサルベージ船の船体に横付けする。確実に定位置に収めないとハッチが開かずポットが船体に回収出来ない。慣れぬ作業にジュリアスは、手を焼きながらもなんとかそれを回収した。
 操縦席のある場所から、ポットを回収した船底へジュリアスは移動した。そして、側面にあるパネルから強制解除の信号を入力すると応答を待った。ややあって、ポットのロックが解除され、自動的にその全体を覆っていた白い特殊なタイルの外壁が二つに分かれた。卵の殻を剥くように、中の中枢部分が露わになる。様々な計器類とクラヴィス自身を保護しているカプセルの部分と。
 カプセルは、まるでガラスで出来た棺のようだ……とジュリアスは思う。コールドスリープ装置はまだ起動しており、カプセルの上部についたパネル上に赤いランプが点滅している。ジュリアスは、手順に従い、解除コードをパネルに打ち込んだ。電子音とともに、パネルには時間が表示される。クラヴィスが目覚める為に必要な時間が。
「また二時間ほど待たねばならぬのか……」
 曇ったガラスを通して眠っているクラヴィスの姿がぼんやりと見える。それを確認したジュリアスは、一旦、操縦席へと戻ると、クラヴィスをサルベージしたことと 、大事をとって次元回廊に入るのは、クラヴィスの意識が回復後、すなわちコールドスリープの解ける二時間後までは、ここに留まっていることを連絡し、再び船底へと戻った 。
 

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