激しく強い色合いにクラヴィスの全神経は反応する。さらにクラヴィスを捉えて離さないものが、その部屋にあった。壁面の黄色の文字をクラヴィスは読む。
朱の間、此処にて血も涸れ果て、
その骨すらも原形を留めず、
それでも尚且つ、否と言うか、異教の者よ…………
後は、異教徒の末を語る辛い言葉だけが綴られていた。クラヴィスは目指していた場所が、ここであることを確信した。
昔、ある女王の御代。
まだ彼女の支配する宇宙にある星々の大半は、科学とは無縁の時代であった。聖地と歩みを共にしていた主星だけが突出しており、それ故に、主星人は、大きな間違いを犯してしまったのだった。
『我が女王陛下こそ宇宙の真理、全ての星は、女王と聖地、そして主星の前に跪くべき……』と。
宇宙船という言葉すらもまだ持たない星へ、聖地信仰を広める為に、多くの伝道師が送り出された。未開の星の民にとって、それは、確かに救世でもあった。
だが、聖地信仰が受け入れられなかった星も数多くあったのである。そんな星では、伝道師たちのほとんどが、無念のうちに命を絶たれたと文献は記している。ある者は、布教を貫き、捕らわれたまま天寿を全うし、またある者は、異教徒として、迫害され、処刑された。
その御霊は数百年以上経た後でも昇華されずに、その地に留まり続けることもあった。聖地に関わったものの無念の思いは、その星や国の動乱などに応じて強く蠢き出し、聖地にまで届き、女王の力に影響を及ぼすことがある。そのサクリアに鎮魂の作用を持つ闇の守護聖は、こうした土地に降り立ち、その霊の鎮魂に力を貸すのだった。
クラヴィスは、その広間の中央に立ち、瞳を閉じた。無念のうちに死んだのは、主星人の伝道師だけではなかった。小さな白い手が幾つも現れては、クラヴィスの衣装の裾を引く。黄色の染料に染まった小さな手である。クラヴィスは、壁面に綴られた言葉を、延々と書きつづらねばならなかった幼き者のことを憂いだ。祈りの間の神々しい言葉ではなく、呪いに満ちた禍々しい言葉を書き記すように命じられたまだ年若い者が、どれほど心を砕いて日々、作業に明け暮れなければならなかったのか。
最近起こったこの国の内乱のせいで、無念のままに死んでいった者の魂の嘆きが、こうした小さな霊や、古の昔、この地で果てることになってしまった主星からの殉教者の霊までも、呼び起こして目覚めさせ、殊更の苦悩を産む。
クラヴィスは、体の奥に沈むサクリアを呼び覚ました。それは、例えて言うなら、心臓の辺りから沸き上がるような感覚である。胸の辺りから、靄のように滲む紫紺のオーラがクラヴィスを完全に取り囲む。クラヴィスの裾にまとわりついていた手は、ひとつ、またひとつと消えてゆく。
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