つい今し方、王立研究院から提出された報告書を見て、クラヴィスはそっと目を閉じた。報告書の数値に大きな動きがあったのだ。
明日、女王試験が終わる、アンジェリークが女王になると報告書の数値は示していた。 あの湖での事があってから、アンジェリークは目に見えて変わっていった。
その女王の資質が一夜にして開花したかのように。
ロザリアとは決定的に違う資質によって、力強く自分の大陸を導いて行った。
その時から既に、誰もが、ロザリアでさえもアンジェリークが女王になると判っていたのだ。
けれどもこうして、はっきりと決定するとクラヴィスは平穏ではいられなかった。
湖での返事は何ひとつしていない、返事のないのが返事だと……アンジェリーク自身は解釈しているようだが……と、クラヴィスは情けない気持ちになった。
ふと、窓の外でアンジェリークの声がしたように思えて、クラヴィスは立ち上がった。 いつもは閉じられたままの暗幕のようなカーテンを開けると、ロザリアとアンジェリークが並んで歩いているのが見えた。
明日、女王試験が終わることはまた二人には知らされていない。こうして聖殿にある守護聖の執務室に育成を願い出ることももうないのだ……私も愛していると言えたならば、どんなにか楽なことだろう……そうクラヴィスは思いながら再びカーテンを閉じて椅子に腰掛けた。
かっての女王候補アンジェリークと想いを寄せ合った時の事を、クラヴィスは思い出した。愛していると言う言葉の重みは感じることがあっても、それを言ってはならない辛さなど微塵も考えはしなかったのだ……。
結局、ジュリアスがキッカケになりはしたが、彼女は女王の座を選び、クラヴィスもまた、仕方の無いこととあきらめてしまったのだった。
(あの時とは違う。だが……)
今また、同じ様に女王候補を愛している自分にクラヴィスは苦悩する。同じ轍を踏む事を恐れている自分にも。
(だがしかし……どういう形であれ、返事をしなければ……)
そう呟くとクラヴィスは重い足取りで、自分の執務室を後にした。