「行くぞ、オスカー、手綱を持て」
ジュリアス様に促されて、俺は木に結わえたアグネシカの手綱を解いた。
「ジュリアス様、館まで早駆けしましょう」
俺はアグネシカに乗ると、そう言った。
「よし、負けぬぞ」
ジュリアス様は、白馬の腹を軽く蹴り駆けだした。俺はその後に続く。俺の一番好きなジュリアス様の姿が目の前にあった。
(そなたも馬に乗ると聞いた。よければ明日私と遠乗りにでかけないか?)
聖地に召されて一週間目に、微笑むジュリアス様を初めて見た。そして、初めて貴方の走る姿を見た。あの日から今までの時の重みを俺は改めて知る。
ふいに灰色の空を引き裂いて、一筋、光が、俺とジュリアス様に行く手に届いた。それは次第に、明るさを増し、深い緑を敷いた野原を赤く染め変えてゆく。黄昏のヴェールがジュリアス様を包み込み、燃えていた。そのただ中に、黄金の輪郭を描きながらあの人が駆けていた。光のサクリアが、その身を離れて久しいのに、貴方は今、尚、俺の中で凛然と輝く……。
林を抜けて、広い野原まで出ると、俺はジュリアス様の横に並んだ。 刹那、ふわりとジュリアス様の髪が俺の頬を掠めた。ジュリアス様は俺を見る、俺はその視線を受けると、身を低くしてジュリアス様を追い越した。
今度は俺の姿を貴方に刻みつけたかった。
貴方が認めて下さった俺の姿を。
貴方とともに生きた炎の守護聖である俺の姿を。
そして再び、時空を越えて聖地に生き続ける俺の姿を。
−END− 聖地の森の11月 あさつゆ