心の香り



 雨が降っていた。 まだ昼前なのに空は、夕暮れのような薄暗さだった。 クラヴィスが寝床にしている屋根裏部屋の窓を開けると、湿った空気とともに、甘い香りが流れ込んできた。窓の下に目をやると、路地裏に咲いている忍冬(すいかづら)が、雨に打たれているのが見えた。咲き始めは、純白なこの花の色が、薄い黄色に変化している。花の終いを誰かに告げようとしている様な香りだった。
「もうお終いか……」
 花の散るのを思って呟いたその言葉が、自分自身のこれからの事のように思えて、クラヴィスは溜息をついた。
 魔法のように一夜明けると、何もかもが全て元通りになっていればよいのに……そう思いながら彼は、痛む足を引きずって階下に降りた。

前進