「私の本当の父親は英吉利人らしいが、母親は中國人で、この國で育ちました。だが、私は中國や中國人がどうなろうと知ったこっちゃないと思っています。祖國は何処かと聞かれたら上海と答える、それだけです。あの街を元に戻す為に私は必ず生き残るつもりです。李老師……いや、ルヴァさん、私は今まで誰も見たこともない、やったこともないような盛大なパーティを開きますよ。英吉利や仏蘭西人、日本人、中國人、印度人……人種なんか問わない、上海人だけを大勢招いて。外灘で、花火を何千発も打ち上げ、南京路には、花を敷き詰めてやろう。もちろん貴方も招待させてください。いつか必ず、あの街でまた逢いましょう」

 緑はコートと皮の手袋を颯爽と身につけて、軽く頭を下げルヴァに背を向けた。その後ろ姿に、ルヴァは彼が片足を引きずっていることに気づいた。見るからに仕立ての良い上等のコートや強気な物腰とは裏腹に、その背中は悲しそうだった。

 扉を閉める間際、緑は別れの言葉を言った。
再見……と。
 李も同じ様に言い返す。
 もう二度とは逢えない……そんな予感がしながらも二人は、再見と言った。

「せめてあの人が、オリヴィエと逢えるように祈りましょう……そして私が……また……」

 とそこまで呟き、ルヴァは首を横に振った。自分の事は何も願うまい、今は何も、と。
 運命というものがあるなら、私たちはまたあの街に還ることが出来るのだから、と。
 



終劇

あとがき